Merck MSD Manual 家庭版 感染症の概要

2016 Merck MSD Manual 家庭版 感染症の概要

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微生物とは、細菌やウイルスなど、ごく小さな生物のことです。微生物はどこにでも存在しています。その数は驚くほど多いものの、人間の体内に侵入して増殖し、病気を引き起こすのは、数千種類ある微生物のうちの比較的少数に限られています。
微生物の多くは皮膚の表面や口、上気道、腸、性器(特に腟[ちつ])内に、病気を起こすこともなく定着しています( 常在菌叢)。このように微生物が害を及ぼすことなく人間と共存するか、あるいは人体に侵入して病気を起こすかは、微生物自体の性質や各個人の免疫機能の状態によって違ってきます>
 
2016 Merck MSD Manual 家庭版 感染症が起こる仕組み
 通常、感染症は微生物が体内に侵入し、増殖することによって起こります。
体内に侵入した微生物が感染症を引き起こすには、まず増殖しなければなりません。微生物が増殖を始めると、以下の3つのパターンのどれかが起こります。
  •  微生物が増え続けて人体の防御機構に打ち勝ってしまう。
  •  均衡状態に達して、慢性感染の状態になる。
  •  人体の免疫機能により、またときに治療の効果も加わって、侵入した微生物が排除される。
ほとんどの微生物は、人体の細胞に付着することによって侵入を開始します。どの微生物が人体のどの細胞に付着するかは、ちょうど「鍵と鍵穴」の関係のように決まっています。微生物が細胞の表面に付着すると、そこを足場にして微生物が組織に侵入できるようになります。
微生物が侵入部位の近くにとどまるか別の部位にまで広がるかどうか、また感染の重症度がどのくらいになるかは、次のような因子によって決まります。
  •  その微生物が毒素や酵素といった物質を作るかどうか
  •  その微生物に抗菌薬に対する耐性ができるかどうか
  •  その微生物が人体の防御機構を妨げるかどうか
  •  免疫系が十分に機能しているか
 
2016 Merck MSD Manual 家庭版 感染に対する防御機構
 人体は自然障壁と免疫システム(免疫系)によって感染症の原因となる微生物から守られています。

自然障壁

自然障壁には、皮膚、粘膜、涙、耳あか(耳垢)、粘液、胃酸などがあります。また、尿も正常に流れることによって、尿路に侵入した微生物を洗い流します。

免疫反応

免疫系は白血球と抗体を使って、身体の自然障壁をかいくぐって侵入してきた微生物を見つけて排除します。

感染症が生じると、免疫系も反応して、侵入してきた微生物を特定して攻撃する能力をもつ物質や因子を作り出します( 獲得免疫)。例えば、以下のものがあります。

  • 侵入してきた微生物を識別して殺す能力をもつキラーT細胞(白血球の一種)

  • 侵入してきた微生物を特定して攻撃する抗体

抗体は微生物に結合してその動きを止め、その場で殺傷するか、好中球が微生物を認識して殺傷するのを助けます。 

免疫系が各々の微生物にから十分に体を守れるかどうかは、一部にはその人の遺伝子構成によって決まります。

発熱

体温の上昇は、感染や外傷から体を守る反応の1つです。体温が上昇する(発熱が起きる)と、人体の防御機構(免疫機能)の性能が高まりますが、その一方で不快感が生じます。

体温を調節しているのは脳内の視床下部と呼ばれる部分です。発熱は、視床下部の自動体温調節機能が高めに再設定されることで起こります。体は血液を皮膚表面から体の内部へと移動させ、熱の喪失を防ぐことで、体温を上昇させます。ふるえ(シバリングといいます)を起こして筋肉を収縮させ、熱産生量を増やすこともあります。新たに設定された高い温度の血液が視床下部に達するまで、体は発熱を続け、熱を失わないようにしようとします。その後は高くなった新たな体温が維持されます。後になって自動体温調節機能が平常値に戻ると、体は発汗したり、血液を皮膚の方へ移動させることで余分な熱を取り除きます。

 

2018 Merck MSD Manual 家庭版 ウイルス感染症の概要

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  • ウイルス感染症は、ウイルスを飲み込んだり、吸い込んだり、虫に刺されたり、性的接触を通じて感染することがあります。

  • ウイルス感染症で最もよくみられるのは、鼻、のど、上気道に生じるものです。

  • 診断は、症状、血液検査と培養検査、感染組織の検査に基づいて下されます。

  • 抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を妨いだり、ウイルス感染症に対する免疫反応を強化するものです。

ウイルスは真菌や細菌よりはるかに小さく、生きた細胞に侵入しないと増殖(複製)できない感染性微生物です。ウイルスは細胞(宿主細胞と呼ばれる)に付着して細胞内に侵入し、細胞内で自身のDNAやRNAを放出します。このDNAやRNAは、ウイルス自身を複製するために必要な情報を含む遺伝物質です。ウイルスの遺伝物質は細胞を支配し、強制的にウイルスを複製させます。ウイルスに感染した細胞は、ウイルスによって正常に機能できなくなるため、通常は死にます。細胞が死ぬと、その細胞から新しいウイルスが放出され、他の細胞に感染します。

ウイルスは、複製にDNAとRNAのどちらを利用するかによって、DNAウイルスかRNAウイルスに分類されます。RNAウイルスには、HIVヒト免疫不全ウイルス)などのレトロウイルスがあります。RNAウイルス、特にレトロウイルスは突然変異しやすい傾向があります。

ウイルスの種類によっては、感染した細胞を殺さずにその機能を変えてしまうものがあります。あるものは細胞に感染して、正常な細胞分裂ができないようにし、がん化させてしまいます。

ウイルス感染症の種類

おそらく、最も一般的なウイルス感染症は次のものです。
    呼吸器感染症:鼻、のど、上気道、肺の感染症
特に多くみられる呼吸器感染症は、のどの痛み、副鼻腔炎、かぜ(感冒)といった上気道の感染症です。
ウイルス性の呼吸器感染症には、ほかにもインフルエンザや肺炎などがあります。
年少の小児では、クループ喉頭気管気管支炎と呼ばれる上気道と下気道の炎症)や下気道の炎症(細気管支炎)もよくみられます。
呼吸器感染症は、乳児、高齢者、また肺や心臓の病気がある人では症状が重くなる傾向があります。

ウイルスに対する防御

ウイルスに対して、体はいくつかの防御機能を備えています。

  • 皮膚のような物理的バリアは、ウイルスが簡単に侵入できないように防御します。

  • 体の免疫系は、ウイルスを攻撃します。

ウイルスが体内に侵入すると、体の免疫機能が働き始めます。そうした防御機能では、まずリンパ球や単球などの白血球が、ウイルスやウイルスに感染した細胞を攻撃して破壊する術を獲得します。体がウイルスの攻撃に勝つと、一部の白血球はそのとき侵入してきたウイルスを記憶し、次に同じウイルスに感染したときにより早く効果的に対処できるようになります。この反応を免疫と呼びます。免疫はワクチン接種を受けることでも得られます。

治療

症状を改善する治療(対症療法)

多くのウイルスには特別な治療法がありません。しかし、以下のように様々な方法で特定の症状を和らげることができます。

抗ウイルス薬

ウイルス感染症を治療するための薬を抗ウイルス薬と呼びます。多くのウイルス感染症には、効果的な抗ウイルス薬がありません。しかし、インフルエンザに対しては数種類の薬があります。